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『事件、裁判を知るための映像と講演:いま、裁判と人権を考える――55年経ったいま、「白鳥事件」から何を見るか』
大出良知さん 講演要旨

1 白鳥事件と刑事裁判の流れ

  昭和20年〜30年台にかけての日本の刑事裁判を巡る状況は極めて否定的な時期でした。その中で政治的な背景があった事件は大変な苦労をしながらも救済がなされました。しかし、その他の救済されてしかるべき事件は白鳥決定前まではそれができなかった。白鳥決定以後、それらの事件が救済の対象になっていきました。
  白鳥事件では、最高裁の裁判官も事件の記録をみて「こんな判決を放置してきたのか」と慄然としたそうです。白鳥決定では「再審にも『疑わしきは被告人の利益に』という原則の適用がある」と言いました。日本の刑事裁判は今のままではまずいと思ったわけです。
  白鳥決定以後、誤判の救済を受けて、なにが原因だったかの核心を衝く議論をし、その結果として被疑者弁護制度を充実させるとりくみが進み、当番弁護士制度(注1)が始まり、そして今日、被疑者国選弁護制度(注2)もできました。日本の刑事司法の悪しき根幹に迫ろうとしたわけです。そのことで新たな制度的な枠組みを使って本当の意味で刑事裁判を変えていき、最終的には「疑わしきは被告人の利益に」という原則のもとでの裁判の実質化につなげていくような努力が求められているような気がしてならないわけです。
  名張事件においては、最終的にはほとんど唯一の物証であった歯痕鑑定が意味のないものだと裁判所も認めざるをえないところまでいった。にもかかわらず「自白があるからいいじゃないか」ということになってしまった。これでは、「疑わしきは被告人の利益に」という原則の適用がされていないわけですね。


2 刑事裁判の現在
  刑事裁判は事実を明らかにできればそれに越したことはないわけですが、しかし、そこまでしなければ被告人が無罪にならないのだとすればみんな有罪になってしまう。口裏合わせを4、5人でやればその人は確実に有罪です。共同共謀正犯というものですね。そういう状況を根本から打開していかなければと考えるわけです。
  最近になって、再審に対する対応に揺り戻しがあったことは間違いありません。被疑者の人権を問題にするならまず被害者の人権を問題にしろという風潮があるからです。それは議論としては入りやすいんですね。わたしも被害者問題を無視していいなんて全く思っていませんが、刑事裁判という場面でそれが強調されてきたときに何が起こるのかを考えないといけないんです。
  それから、治安が悪化しているという話がありますが、本当にそうなのかは誰にも証明できないわけです。にもかかわらずマスコミはこぞって犯罪白書の説明をしながら強調します。私は記者に治安が悪くなったとどう実感しているのか聞くと、彼らは困るわけです。「警察が、法務省がそう言っています」と言うんですよ。それで先生はどう思いますかと聞くわけです。いや、統計的にいってもそんなことはないと言うと「えーっ?」となって帰ってしまうわけです。テレビを見る人の多くは、「あ、治安が悪くなっているんだ」と感じてしまっているんです。

3 「疑わしき派被告人の利益に」の原則のもつ意味
  わたしたちは、日本の刑事裁判の歴史を振り返って、刑事裁判の原則というものが本当の意味で根付く基盤をつくり得たのか、あらためて考えなければいけない段階にきています。努力によって打開できないのかというと、そうではない。刑事裁判の原則というものは人類の歴史と知恵として形成されたものですし、我々の努力によって歴史をつくりあげていくことによって、その意味を明らかにしていくこともできるわけです。
  現在、刑事裁判というものは証拠によって判断すべきものだという原則が定着しました。問題は、真実が明らかにできないとき、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が適用されるべきだということになる本当の意味を我々は正確に伝えられるのか、皆さんに理解していただけるのかということが重要な問題だという気がします。
  名張事件は私も学生と調べて当然無罪と信じておりますが、この事件がこれまで放置されていること自体が重大な問題です。さらにもっと無罪になっておかしくない事件があるはずですが、少なくとも救済されてしかるべき事件が数多くあると思いますので、皆さんにも是非関心を持っていただきたいと思います。
(注1)当番弁護士制度……1992年から始まった制度で、刑事事件で逮捕された人、またはその家族や知人が所管の弁護士会に依頼することによって当番弁護士に防御その他のアドバイスを受けられる。
(注2)被疑者国選弁護制度……2006年10月から始まった制度で、被疑者(犯罪を犯したと疑われる人)の段階から国選弁護人を選任できる(ただし、一定の重大事件、またはもっとも短い刑期が1年以上と定められた罪についての事件に限られる)。これまでは被告人(犯罪を起こしたとして起訴された)になった段階でなければ国選弁護人を選任できなかった(憲法37条3項)。

【大出良知さん(東京経済大学教授)】
専門は刑事訴訟法。誤判を発生させない刑事司法システムをつくるための刑事弁護の充実、強化にむけて、司法全体の改革の必要性を提言している。著書に『裁判を変えよう――市民がつくる司法改革』大出良知=村和男=水野邦夫(日本評論社、1999年)など。
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