職業柄か、「在庫僅少本」という言葉に私は弱く、すぐに購入してしまいます。紙の本は有限であり、自分が「いいね」と思った本との出会いは、基本的に“一期一会”だと思っているからです。SNSなどデジタル社会の中で「いいね」の重みは軽くなってしまいましたが、本については「いいね」と思ったらそのときに買わないと後悔するというのが私の持論です。
先日、2年前(2021年)の5月にhurp出版から刊行した『小倉隆人 写真集 ヨコスカ、工業地帯、足尾、東京湾 1970~2015 同時代を見つめて』が在庫僅少であるということを聞いて、すぐに購入しました。つい最近刊行されたような気がしていたので(コロナ・パンデミック以降、「毎年恒例の」が無くなり、時間の流れがよくわからなくなってしまったのは私だけでしょうか……)、「いつか買おう」と思っていたのですが、危なかったです。撮影者の人生がそのまま投影されたと言っても過言ではない力作との“一期一会”を逸するところでした。
250ページを超える厚みのある写真集で、タイトルのとおりの順に撮影地が移り変わっていき、同時に1970年代から現代に近づいてくるという構成です。最初のヨコスカが撮り手の原点になっており、ヨコスカを撮り終えて感じた「写真=自分が生きている時代と同化した写真であるべき」が全編にわたって貫かれています。自分が生まれていない時代だからこそ美化されて見えるのかもしれませんが、冒頭40ページにわたるヨコスカの写真群は著者も、時代も元気溌剌としており、著者とこの国の「これから」、すなわち明るい未来への可能性のようなものを感じました。撮影者が時代と同化して写真を残すことを楽しんでいるのが伝わってきました。
「自分が生まれていない時代」と同じく「自分が訪れたことのない場所」に思いをはせることができるのも写真の魅力のひとつです。1996~1997年の足尾の写真群は、撮影者が問題意識を持って、あえてその土地に潜り込んだからこそ撮れた写真ばかりで、一枚一枚から伝わる思いの大きさが生半可ではありませんでした。1ページをめくる時間が一番かかったのは、足尾の25ページでした。とくに、136ページの「崩れる墓」は印象的な一枚でした。
スマホの登場と普及で「いいね」と思った写真を誰でも手軽に撮れるようになり、またITの進化で自分好みの写真をイチからつくれるようにもなりました。では、それによって従来のアナログ写真は価値の無いものになったのか。それは違います。逆に、アナログ写真の価値は高まっているように感じています。『小倉隆人 写真集 ヨコスカ、工業地帯、足尾、東京湾 1970~2015 同時代を見つめて』はそれを確信に変えてくれました。シャッター押す人間が時代の一瞬と同化して切り取る1枚、そういう写真を撮り続けていきたいという自分の“憧れ”になった1冊でもあります。
最後に、しつこいようですが、「在庫僅少本」とのことですので、お早目のご購入をオススメしたいと思います。
(H.O.)